『夜ノ森』『大野』『双葉』常磐線運転再開と帰還困難区域解除の狭間に揺れる3駅前

東日本大震災発生から9年が経過した2020年3月。原発事故のため不通となっていた常磐線富岡ー浪江間の運転が再開し、常磐線全線の復旧が完了した。9年ぶりの運転再開は地元自治体に歓喜をもって迎えられ、復旧に合わせて運行を開始した品川・仙台間を結ぶ特急『ひたち』はそのシンボルとして多くのメディアに取り上げられた。

しかし、全線運転再開を遂げた常磐線だが、「とりあえず鉄道の復旧を完了した」という印象が拭えない。というのも、福島第一原発の近くの自治体では未だ帰還困難区域の解除が行われておらず、町の復興が追い付いていないからだ。特に最後の不通区間にあった夜ノ森(よのもり)、大野(おおの)、双葉(ふたば)の3駅の駅前は、帰還困難区域内でありながら「特定復興再生拠点」として特例的に立ち入りが認められているものの、周辺は依然として立ち入りが制限されている場所が殆どだ。

そんな常磐線復旧と帰還困難区域の解除の狭間に揺れる3駅前の復興10年目における断面を記録に残すことにする。

1.夜ノ森駅前

夜ノ森駅

3駅のうち最も南に位置する富岡町の夜ノ森駅。桜の名所として名高い夜ノ森地区の玄関口だが、ふだんは普通列車しか停車しないローカルな駅である。

メインの東口に降り立つと、駅前からまっすぐに県道が伸びるが、沿道には立入禁止柵が並ぶ異様な光景が広がる。

夜ノ森駅前

柵は途切れることなく立てられており、沿道の建物に立ち入ることは一切できない。どうやら道路は浜通りの大動脈・国道6号から専ら駅にアクセスするために開放されているようだ。

夜ノ森駅前
夜ノ森駅前
夜ノ森駅前
夜ノ森駅前
夜ノ森駅前

駅こそ復旧し利用可能となったものの、周辺は帰還困難区域として今なお立ち入りが厳しく制限されており、町を取り巻く環境はこれまでとほぼ変わりない。

2.大野駅前

大野駅

大野駅は夜ノ森から1駅仙台方の駅である。大熊町内唯一の駅であるこの駅は福島第一原発の最寄駅であり、特急列車も停車する主要駅だ。そんな大野駅だが、駅前は夜ノ森と同様に立入禁止柵が隙間なく巡らされており、完全に町としての機能を失っている。

メインの西口に出てみると道の両側に柵が並び、迷路のように一本道が伸びるのみである。商店がいくつも営まれていた名残が見られるが、今や色褪せた店の看板が物寂しさを漂わせている。

大野駅前
大野駅前
大野駅前

町は駅の東口にも広がるが、東口に至っては驚くことに歩行者が駅前から出ることすら許されていない。

大野駅前
大野駅前

3.双葉駅前

双葉駅

最後は帰還困難区域内最北に位置する双葉駅。双葉町の中心駅で、駅の東口には市街地が広がっている。3駅の中では最も規模が大きい駅とあって、再整備された駅舎や駅前広場はそれなりに立派なものであるが、やはり町には人影は無く寂し気である。

双葉駅前

ただ、双葉駅前は夜ノ森や大野のように町じゅう柵だらけではなく、比較的開放感があるように思える。町の中も自由に歩き回ることができ、復旧工事も所々で進められている。どうやら双葉の帰還困難区域解除はさほど遠くなさそうである。

ただ、町を歩いてみると震災の痕跡が至るところに見られる。震災後長らく住民不在となっていただけあり、屋根の瓦は落ち、シャッターは外れ、建物内には物が散乱したままである。

双葉駅前
双葉駅前
双葉駅前
双葉駅前

駅の西口では区画整理の真っ只中のようで、着々と工事が進められている。事業規模は20ha余りに及び、2021年度末までかかる見込みだ。

双葉駅前

取材を終えて

程度の差こそあれ町の復興が追い付いていない常磐線の運転再開だが、鉄道の復旧が復興の1つの節目であることに違いない。これを機として復興の機運が一層高まり、帰還困難区域の解除に向けた取り組みが進展することを祈りたい。

(取材年月:2020年6月)

@GREAT__WALKER